9/17-18 海谷三峡パークから海川を経て雨飾温泉

この週末には兵衛谷に行きたいと思っていた。
地形マニアでもある私は、兵衛谷のみごとな柱状節理の写真を見て、あの中を歩くと想像しただけでヨダレが出そうだった。

そうでなくても、シルバーウィークの連休を利用して、初めての沢中2泊の計画は楽しみで、南アルプスか北アルプスの良さそうな沢へ行こうと、ノストラカマス氏の掛け声で集まった女子3名と行先の相談を重ねていたのだ。
しかし、この週末の台風14号騒ぎで、南も北もアルプスは沢中泊には適していなくて、日帰り沢のためにあんな遠くまで行く気になれず。
あれやこれやと揉めるうちに、台風騒ぎが大きくなり、常識ある人たちは一人、また一人と不参加を表明し、最後にはノストラカマス氏と私だけが残った。
天気図を目を凝らして見ると、17・18日の新潟は大丈夫そうだと判断し、ノストラカマス氏が直前に提案してくれた糸魚川の沢へ行くことに。
糸魚川は、洞窟がたくさんあり、何度か行ったことがあるので、一人で運転して行ける確信があった。

 

前夜のうちに糸魚川に移動したけれど、途中の工事による車線規制で時間がかかり、到着したのは夜中3時。
もう一名、ノストラカマス氏が直前に声をかけて参加してくれたKさん(会外)にもご挨拶して、すぐに仮眠。
ノストラカマス氏が引いた計画ルートでは、全体の距離は9.1km。(実際は、14.4kmだった)
それほど長い距離ではなく、帰りは破線とはいえ登山道で下山するので、そんなに焦って出発することはないと、出発の朝はゆっくり寝させてもらった。

 

ゴールは雨飾温泉なので、私の車を雨飾温泉にデポ。
スタート地点の海谷三峡パークまでは軽く1時間かかり、なんだかんだ出発は11:30になってしまった。
あまりに余裕かましすぎだろうか、と内心少し焦りつつ歩き始める。

 

海谷三峡パークは無料のキャンプ場だが、グネグネの林道の終点にあると思えない広々として爽やかな施設。
千丈の大岩壁と名付けられた高さ600mの岩壁が背景に迫り、こんなドラマチックな景色を見ながらキャンプなんて素敵やなぁ。

海川山峡パーク
海谷三峡パーク

このキャンプ場から海川沿いの登山道を歩いて、海谷高地(732高地)までのルートは、海谷渓谷ジオサイトの見学コース(3~4時間)とされている。
この付近は、映画「楢山節考」の撮影地となったそうで、撮影風景の写真が看板になっていて、「えー、緒形拳、若い~」「監督って今村昌平やったんや~」と記憶をたどることができた。

 

見学コースを気楽に歩いて海川に降りる予定が、出だしで間違えて、海川の枝沢にある取水施設の管理道を歩いて行ってしまった。
何だか川がどんどん遠くなると思っていると、30分ほどで小さな取水施設にぶつかった。
そこで、その枝沢を標高差150m分ほど下降することに。

枝沢を下降する

こういうとき、私なら来た道を戻って、正しい道に軌道修正しようと考えるのだけど、ノストラカマス氏は絶対に辛い道を選ぶ。
杣道下山と沢下降なら、沢下降を選ぶ。
谷を詰めて登山道に上るより、途中で藪をトラバースして登山道に上るほうを選ぶ。
「あのー、何でこっち行くのですか?」と何度か聞いたら、「こっちのほうが早い」が答えだった。
「楽な道を歩きたいなら沢登りなんかするな」とも言っていた。

 

枝沢には数メートルの滝が何度も出てきて、そのたびに灌木を掴んでズルズルと横の斜面を下る。
来る前にノストラカマス氏が言っていたとおり、雪国の藪は木や草が下向きに生えている。
この下向きの木や草を存分に味わう2日間となった。

 

無事に枝沢をたどって、そもそもの見学コースにたどりつくまでは1時間かかった。登山道を戻っても時間は同じくらいだろうから、まぁいいか。
大人数だと、もっと時間がかかっただろうから、結果的に3名の小パーティで良かったのかもしれない。
ノストラカマス氏は「沢登りらしくなったな」と嬉しそうだ。

 

快適な見学コースを続けて歩き、海川に出た。

海川に出た
海川に出た

50mくらいありそうな広い河原が、両岸を高い岸壁に囲まれている。
増水時にはさぞかし大量の水が流れるのであろう。小屋くらいの大きな岩がゴロゴロしていて、その間を縫うように歩く。
「大きな岩のゴーロって、しんどいから一番嫌いなんです」と言うと、ノストラカマス氏に
「ゴーロが嫌いなら、沢に向いてない。沢登りなんかするな」と叱られたので、
「わかりました。明日から二度と絶対に沢には立ち入りません!」と啖呵を切ったが、沢中泊で翌日も沢登りなのだった。

 

海谷高地への見学コースは、ここから右岸側に続く。
何度も急な登りが繰り返し、太陽が照り付ける中の登山は厳しい。
私は巨岩のゴーロを進むよりは100倍マシと思って、無心で歩いた。
しかし、沢から離れたノストラカマス氏はどんどん弱っていき、一人でブツブツ文句を言っている。
たっぷり1時間そのまま歩くと、取入口という場所に小さなダムがあり、その上は川が歩きやすくなるので、ようやく川沿いに歩く。
瀕死のノストラカマス氏は水浴びをして元気になった。

取入口
取入口

 

その先は、巨岩は無くなったけれど、さらにゴーロが続き、延々と、延々と、ひとつの滝もない河原を歩き続ける。
ここまでゴーロが続くと退屈なもんだけど、地形マニアの私はウハウハだった。
両岸、行く先、来た道にも、巨大な岸壁が迫り、それはそれはダイナミックな景色。
「日本じゃないみたい」とずっと思っていたけれど、あまりちゃんと日本の山に行ってないので、よくわからない。

延々とゴーロを歩く
延々と河原を歩く

途中、3組の釣り師に出会った。
釣り師の方とのコミュニケーションがよくわからなくて、私はいつも会釈くらいで遠巻きにすれ違うのだが、同行のお二人は気さくに会話して、仲良くなっていたので、次から見習おうと思った。
この日は気温が高く、水温が上がり、みなさん目当てのイワナはまったく釣れなかったとのこと。
印象的だったのは、3人組のお兄さんたちで、15時ごろの時点ですでにブルーシートの上にマットをしいて寝袋を準備中。
水流には大量の缶酎ハイを冷やしつつ、すでにご機嫌に酔っぱらっていて、今日から沢中2泊すると言う。
3日目は台風来るのでは?と思ったけれど、「明日はもっと仲間が来るんや~」と陽気な笑顔は、台風なんか吹き飛ばす勢いだった。
ちょっと仲間に入りたくなったけど、誘惑を振り切ってさらに歩き続けた。

 

予定どおり、16時ごろに二股付近で泊適地を見つけ、一泊。
周辺には乾燥した流木が大量にあったので、すぐに焚火が点き、ツエルトは完璧な状態に設営でき、ノストラカマス氏は満足そうだった。
私も隙間を見つけて、自分のツエルトを設営したが、そんなに完璧ではなかった。

焚火に満足そう
焚火に満足そう

それよりも私は、鍋用に持参したナンプラーがザックの中で漏れていて、食料袋の中が、魚醤の匂いで充満していたことにショックを受けていた。
他のものに匂いがついていないか、全部の荷物の匂いを嗅いだが、妄想ナンプラー臭に悩まされました。
気を取り直して、激辛キムチ鍋を作り、ビールで乾杯したが、1缶飲み終わる前に完全に酔っぱらい、砂地の上で寝転がっていたら、ノストラカマス氏にそんなところで寝てないでツエルトで寝なさい、と言われ、たぶん20時ごろには寝てしまった。

 

翌朝、5時半に勝手に目が覚めて、残りの激辛キムチ鍋とご飯を食べ、ご飯の残りをお弁当にして、出発。
二股を右へ進むと、いくつか優しい滝が出てきて、2日目にしてようやく沢登りっぽい渓相に。
いつも私の歩きが遅くて遅れるので、ノストラカマス氏に先に歩けと急かされ、必死で歩いていると、ふと魚が泳ぐのが目に入った。

 

釣りをするなら、水温が上がる前の朝のうちが良いだろうと考えて、持参のテンカラ竿を出した。
追いついてきたお二人には先に行ってもらい、モタモタと用意をして、釣り糸を投げてみた。
3か所目に投げた小さな瀬で当たりがあり、釣りあげた。
さっき見た魚だった。

 

実はテンカラ釣りを始めたのは今年からで、この時まで一度も釣れたことが無く、初めての釣果だった。
釣れた魚は30cm近い大きなイワナ。
ものすごく綺麗で、ずっしりと大きくて、生命力にあふれた様子に圧倒され、逃がすことしか考えられなかった。
針を口から外すのにモタモタして、針が刺さったところから血が出てきたので可哀そうになり、「ごめんね!」と話しかけながらようやく針を外した。
そっと川に放すと、ゆっくりとイワナは泳いで行き、私は猛烈に安堵した。
気が付いたら、焦って、グローブを片方流してしまっていた。

逃がした魚
逃がした魚

 

もう釣りをする気になれず、竿を持ったまま先行の後を追うと、2人は稜線に詰める予定の支流との分岐で休憩していた。
ノストラカマス氏は、今まで私が一度も釣ったことが無いのをご存じなので、まったく期待していない顔で、支流の説明をし始めた。
私が、釣れたけど可哀そうで逃がしたことを話して、写真を見せると、驚いて、
「釣り師にまったく向いてないなぁ」と呆れられた。

 

釣れたのがあまりに立派なイワナだったので、動揺したけれど、次はきっと大丈夫なはず。
しかし、あの綺麗な魚の様子を思い出すと、他に食料が無いときしか釣りたくないと思ってしまう。
そんな動揺は、ここから詰めあがった支流の大変さで、すっかりかき消されるのだが。

支流を詰める
支流を詰める

標高差250mほど支流を詰めあがる。
小さな支流には、小さな滝が何度も現れ、斜面を巻けばどこも藪々泥々で、草や木は下向きに生えており、「ぐおっ、ぐあぁっ」と獣のように呻きながら必死で登る。
今回、滝があったらリードで登りたいと思っていたので、一か所リードさせてもらったけれど、7mくらいの滝の中盤にある狭いテラスの上に張り出した岩が、下から見たよりもホールドが無くて、どうにもならず、途中で敗退した。
狭いテラスでもがいているとき、ザックが邪魔で上の岩の様子が見えなかったので、無言でザックを外して下に落としたら、ノストラカマス氏に叱られた。

下降のとき、怖くて、途中に設置したハーケンが回収できなかったので、滝を巻いて、上からロワーダウンして回収することになった。
この巻きがまた酷い藪々泥々で、非常に苦労する。
私は先に登って、下降地点を探していたのだが、ノストラカマス氏に、こういう藪々泥々ではセカンドの人にロープを出したほうが早い、と叱られた。
その後、下向きに生えた木を支点にして、懸垂下降せねばならず、私が支点用の捨て縄を持っていないので、叱られた。
懸垂下降後、滝を下降してハーケンを回収し、戻ったときは、登るのが早かったと、褒められた。

小さな滝たくさん
小さな滝たくさん

この後も、藪を登るのが遅いと文句を言われ、プルージックコードを持っておらずアッセンダーしかないので叱られた。
ずいぶんと勉強になりました。

藪の中で休憩
藪の中で休憩

最後、とどめの藪漕ぎの末、稜線にたどり着いたのは15:20。支流を登り始めたのが9:20だったので、6時間もかかっていた。
私がリードした滝で2~3時間費やしたらしい。
この詰めでは終始、無心で登っていたので、今、時間を計算して驚いている。
ノストラカマス氏によると、「雪国の藪漕ぎにしては、今日のところはだいぶマシや」とのこと。恐ろしい。

 

稜線に出てからは、破線の登山道とは言え、快適な道のりで、フェルトソールで滑りやすかったけれど、ほぼ予定の時間に下山できた。
最初ノストラカマス氏は私よりも20mくらい先を歩いていて、少し危ないところがあると、こちらを振り向いてニヤニヤしていた。
今思うと、あれはニヤニヤしていたのではなく、にっこりとほほ笑んでいたのかもしれない。
そのうち同行の2人はどんどん先に行って下山してしまった。

快適すぎる登山道
快適すぎる登山道

下山後、雨飾温泉(500円)にて入浴。
鄙びたという形容詞にふさわしい、簡素で小さな温泉。先客の女性が1人いたが、その方が出てからは貸し切り。
本当にいい湯で、最高の締めくくりとなりました。

雨飾温泉
雨飾温泉

思い返せば、巨大な岩壁、雪国の藪漕ぎ、巨岩のゴーロ、陽気な釣り師たち、絶景のゴーロ、完璧な焚火とツエルト、快適な沢歩き、初めての釣果、リードで敗退、必死の藪漕ぎ、爽やかな稜線歩き。叱られたり、褒められたり、とあらゆる要素がちょっとずつ詰まった沢登りでした。
ノストラカマス氏に、「楽しかった~。ありがとうございます。」と言ったら、「ウソつけ。そんなしんどそうやのに」と信じてもらえず。

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3件のコメント

  1. ノストラカマス

    楽しめたんやったら えがったっす。そのために行ったのだから。

  2. 読み応えありました!面白くて、お腹攣りそうでした。岩魚初めて釣ったんですね、それもテンカラで!私も初めての時は複雑な気持ちでした。
    ノストラカマス氏とのやり取りに、色んな経験をされてるように思って読んでました。
    自分にあった取捨選択で、ますます安全楽しい沢登りができると思ってます。

    • 近野由利子

      コメントありがとうございます。
      もりだくさんだったので、長くなってしまいました。
      そういえば、少し前に大和谷川を見に行きました。奥ノ坊主谷はどれか判別できずでした。
      昔、涼石岩屋を見に行ったとき、あのへんの石灰岩はあんまり美味しくなさそうでしたが、変わらずの印象でした~。
      でも、また見に行ってしまうかもです。