こちらも遅くなりましたが素晴らしい大滝でした。
23/10/17(火)大入渓谷、布滝登攀
メンバー:シブ &コージ、アサラト妖精(記)
シブさんコージさんにお誘いいただき奥三河は大入渓谷の布滝へ。
シブ&コージに大滝登攀で同行できるという事でもちろん即答YESなのだが、まだまだ大滝登攀の経験値の低い自分としてはYESの返答直後から少しの緊張が心にまとわりつく。
また、ジムトレはしているものの最後に登った大滝はフェースはフォローで、水線はリードしたもののその全てを沢タビで行っていた。
フラットソールで大滝を登るのはほぼ一年ぶりとなる。
そして1年前にナメに足を取られた嫌な感覚を拭えないままでいた。
今思うと心の準備ができていなかったように思う。
シブさんコージさんの選定してくれた布滝は、成瀬陽一さん初登の3段90mの大滝である。
記録は「日本の渓谷96」より。
その後の再登の記録を見ないという事で面白そうだなと。
おもしろそうだな?という言葉の裏には緊張が、いや、正直に言って恐怖心が張り付いている。
この登攀へのモチベーションと恐怖心(≠緊張感)の絶妙なバランス関係とは今後どのように付き合っていくかとても考えさせられる。
車を乗り合わさせていただき、前日より奥三河へと向かう。
途中鳳来の岩場へのアプローチを通過する時、お二人が岩場へ通っていた頃の話を聞いて、自分もいつか、でも確実に訪れる事になるであろう鳳来の岩場への想いに耽った。
当初、前泊予定であったみどり湖の新豊根ダム公園を目指したが、手前数キロの所でまさかの土砂崩れの工事による通行止めに阻まれる。
仕方なく通行止めのゲート手前にテントを張って泊地とした。
酒とつまみで乾杯して、ダム湖からきこえるギャーギャーという謎の鳴き声にプテラノドンを想像しながらそそくさと就寝した。
翌朝はギアのチェックをしながらパッキング。
今回は自分がメインでリードさせてもらえる事になっていたので、まだまだ数少ないギアを総動員で持参した。なにせ記録は30年近く前の成瀬さんの記録のみ、その記録に支点がとれないランナウトした箇所があり、ナッツでようやく支点が取れたとの情報があったので、出発前にナッツ一式を購入して持参していた。
リードで登る以上、安全確保は自分でしっかりと行わねばならない。
ギアラックにギアをラッキングする位置、カラビナの向き、片手でハーケンが取り出せるか、、事前にシュミレーションしておいても確実に想定外な事は起こるもので、気持ちの面も含めてバックアップを意識して準備する。
通行止めゲートを越えて舗装されたダムの敷地内を小1時間ほど進む。
布滝沢出合
出合の滝
CSの滝5m?は登れそうという事で取り付くも、悪くロープを出して人工で乗越す。
コージさんリードで。
斜瀑20mも登れそうにみえるがアプローチでタイムロスしている事と初めての大滝で時間がかかる事を予想して巻く事に。
簾状15mは下段のナメをフリーで直登後、上段が立っていたので右岸より巻き上がる。
2又を右へ進むと布滝前衛のナメ滝が美しい。
そしてついに布滝が姿を現した。
下段簾状ナメ滝の上に岩壁が立ち上がり、その左側を中段の滝が流れ落ちている。
その上は下からでは確認できない。
迫力満点の雄大な大滝を見上げながら、既に半自動的に各々登攀ラインを探る。
下段はノープロで登れる。
登攀開始は中段、水線右側の壁からであるが、草付きの雰囲気がしばらく登られていない感じをアピールしている様に感じる。泥、草、が嫌ーな感じ。フラットソールよりも沢タビの方が信頼感のある自分としては、せめて取り付き直後、小テラスへ乗越すまでは沢タビで行きたいという思いが出てきた。
ギアを確認してカム、ハーケン、ナッツを装備、足りないハーケンと、シュリンゲ、カラビナをコージさんから受け取り、エイトノットを結ぶ。
足元は、踏ん切りがつかないまま「途中まで沢タビで登ってテラスでフラットソールに履き替えます」と言ったが、行けそうなら全部沢タビで登ろうと考えていた。
出だしのスラブからまあまあ悪い。
ハーケンでゼロピンを打って登攀を開始した。
出だし早々のピナクルの乗越し、ここが今回の第一核心であった。
スタンスが悪い垂壁の乗越しに絨毯草付き(岩肌に乗っかってるだけのめくると一面ベロっとめくれる草付きをそう呼んでいる)がオマケで付いてくる。
こんな所支点が取れなければ行く気しないのだが、岩質的になかなかハーケンが決まらない。(決める能力が自分には無かった…)
しばらくハーケンでの支点構築を試みるも、諦めて足元のブッシュをフリクションノットで束ねて草束支点を作った。
以前何かの映像で見た山野井氏の支点の強度確認に習い、支点を引き千切らんばかりの全力でテイスティングした。(この全力テイスティングする事で支点強度落ちてないかと思ったりもしたが…)
ただこの草束支点は足元である。
乗越しで2m上がり落ちれば4m以上は落ちるなとその時はそう考えながらどの辺に落ちるかなと、下を見ていた記憶がある。
ふむ、ギリギリグラウンドフォールはするかなと。!
ただ下はスラブになっており、草束支点が効けば大事には至らないだろう。
目の前の絨毯草付きをホジくってしてホールドとした。
足を少しずつあげ手に足で草付きに上げるとそこからノーハンドで草付きに立ち上がった。
「ノーハンドで草付きに立ち上がる」今、文字に起こすとなんて事してんねんと我ながら思ってしまうが、その時は行けた!越えた!という気持ちだった。
あとは手の届く範囲に保持できる「手」を探していち早く安定して支点を打つだけだと、
壁を探ろうとした瞬間であった。
足元の草付きがごっそりと抜けた。
落ちる瞬間の記憶は曖昧であるが、滝から振り向いた形でスラブ面を滑り台の様に滑り落ちた。不幸中の幸いだったのは最後の草束支点が効いた事と滑り落ちたラインに大きな凹凸が無かった事。
これによって支点を中心に振られ落ちの形になり、またスラブ面を滑ったことで滑落の力が逃された様だ。
直後は特に身体に痛みも感じず無傷かのようであったが、滑落直後はアドレナリンが鎮痛作用を引き起こしている事があるので自分の感覚を直ぐには信じられない。
しばらく呆然と座っていたが、左の太腿に軽い鈍痛を感じる程度でスクワットもできるし、大事に至っていない事を確認した。
人生2度目のグラウンドフォールである。(1度目は未記録)
スポーツルートでのフォールは実は好きだったりする。
いや、悔しいくて「くそー」となるのだが、そう簡単に登らせてもらえない課題に喜びを感じるし、逆に簡単に登れてしまった課題で思い入れのあるルートは少ない。
それとは完全に別で、沢でのフォール、しかもグラウンドフォールに関してはもう「無」でしかない。(大きな怪我せんでよかった…)そう呟いてあとはもう「無」である。
死でもない。生きてるから。ただただ無。
しばらくは何も考えれない。(大きな怪我せんでよかった…)それだけ。無…。
リードをコージさんに交代してビレイにまわる。
コージさんはピナクル手前にリスを見つけハーケンを決めて静かにサラッと乗越して行った…。
中間でシブさんが登り、回収で自分が登るのだが、先程落ちた場所、絨毯草付きは無くなっており岩肌が露出していた。
トップロープ状態で恐怖感もなく取り付くが先程ホジった草付きはもう無く、ムーブが変わってくる。やはり悪い。
スポーツルートでのグレード更新(初登でない限り事前にグレードが分かっている)とは違い、沢ではそのラインに直面して、その只中でその「悪さ」と、向き合う事となる。
まだまだ大滝登攀の経験の少ない自分にとってではあるが、今回の布滝はフォローも含めてこれまで登ったどの大滝よりもその「悪さ」を更新していた。
ピナクルはゴボウで登った。
さらにその上にも同じような悪い乗越しが続いていて、支点も取りづらそうであった。
結局、最初のピナクルを越えていたとしても今の自分にはこの滝はリード出来なかったのではないか…
冷静にそんな事を考えながらも感情はなし。無。
中段を登ると木陰に隠される上段斜滝が姿を現す。
シブさんコージさんより打診を受け、最終ピッチのリードをさせてもらう事になった。
水際のナメに足を取られて本日2度目の滑り台を滑る自分の映像が頭をよぎったりしたが…
見た感じより滑りは少なく、沢タビのフリクションが効いていたが、最後の一箇所、乗越しで手間取ったが、慣れない人工で越えた。
フォローとはいえこのナメた水線をフラットソールで登ってくるお二人には膨大な登攀の蓄積を垣間見た。
今回の布滝登攀では多大な情報量の気づきがあった。
また、今回のグラウンドフォールについては1ヶ月以上あーでもないこーでもないと考えを巡らせる事となった。
自分が落ちた絨毯草付きもコージさん曰く、沢タビで面で乗るのではなく、フラットソールで点で乗っていれば抜けなかったかも?という事であった。
沢でのフラットソールの使い方も、乾いた岩肌とでは変わってくる。
濡れた面へのスメアであっても、その何処かに岩肌の皺や結晶を嚙ます事によって(スメッジング)摩擦係数を稼ぐという。
これは経験の成せる技であると思うが、スポーツルートでの登攀から、足を意識して登り、フラットソールと仲良くなっておく重要性を感じた。
また今回1番考えたのは支点構築の重要性である。
沢における支点の構築力というものは、登攀力の中の重要な要素でもあると思う。
たまたま登れてしまうなんて事はないが、たまたま落ちる事は多分にある。
そんな時に1つの支点が命を救う事があると肝に銘じておきたい。
今回のグラウンドフォールに関しても大事に至らなかったのは、最後の草束支点が効いていたからというのも要因としては大きい。
また、自分の実力を客観的に見て、行く、やめるの判断も今後とも課題になってくると感じる。
これまで沢に同行したメンバーがノープロでの突破やリードを、途中でやめて戻ってくるのを幾度か見てきているが、その判断にはいつも関心していた。
自分はこれまでにリードを諦めて途中で戻った事は1度しかない。
これに関しては今後もたくさんの経験を積みながら考えていきたい課題である。
単独での遡行時の集中力をパーティーでの遡行時にも発揮できるように心がけたい。
単独で沢に入ると集中力が増すし、判断力もよりシャープになる。何より無茶は絶対にしないし自分のペース、リズムをしっかりと感じながら遡行できる。
単独行者やよく言う、パーティーで行くよりもソロの方が安全度が増すという一見矛盾するように思われる見解は単独で沢に入るとすぐに理解できる。
フィジカル要素や、ムーブの蓄積は、言わずもがな余裕を持った登攀には必要不可欠なであるが、過信にも繋がる恐れもあるのでスポーツルートと沢での最大出力の違いを意識して支点構築技術と並行して積み上げていきたい。
最後にメンタル的な要素というか沢とどう向き合うかという事をかんがえた。
沢登り初心者としてわらじに入会した当初は、行きたい沢といわれてもあまりピンとこず、お誘いを受けていわゆる「連れてってもらう」沢が多かった。
一応自分なりに考えて山中で不意に1人になったと仮定して、そこから自力で下山できる準備はして山行に臨むようにはしていたが、やはり自分で選定した沢であるのと、お誘いを受けて行く沢とでは違いがある。
大滝に関しても同じで、まだまだ経験の浅い自分にとって大滝登攀のパーティーへ誘ってもらえる事はとても有難いことであるし、実際にそのようにして生きた経験が会として共有され伝えられてきている事も理解しているが、今回グラウンドフォールして、自分は今回のこの滝にしっかりと向き合っていただろうかという自問が浮かび上がった。
送っていただいた記録を読んで、大滝登攀の経験値が上がればというモチベーションで止まっていたかもしれない。(結果として想像以上の経験値を得たのだが…)
昨今オリンピック効果でスポーツクライミングが取り沙汰されているが、登山や、沢登りにおける登攀という行為はスポーツではない。
個人的にはフィジカルを存分に使った精神的な行為であると思っている。
(そのトレーニングとしてのクライミングがスポーツである事が多い為混同しがちであるが。)
そうであればやはり自分の中ではこれまでの大滝に対しての向き合い方では物足りない。
もう一歩踏み込みたいと思う。
それが何を意味するのかぐるぐる考える日々を過ごした。
実際今回の山行の直後に誘われた大滝登攀を断っている。
「自分で選定した大滝を登るまで一旦大滝登攀をお休みしようと思います。」
と言ってみたものの、なんかそれも違う気がする…
もちろん沢登り、大滝登攀に付随するリスクについては承知しているし、危険やスリルを求めているわけでもない。かと言ってトップロープで滝を登ろうなんて思わないし、100%安全な登攀というものが存在したとして、それをやろうとはどうしても思えない。
もう一度書いておくと、決して危険やスリルを求めている訳ではない。
なのにグラウンドフォールしてまで何故また滝に登るのか?
これは言語化しにくい。とても難しい。
「俺は沢ヤだから!」
というと、とてもシンプルかつ格好良さげではぐらかせるので面倒な時は採用するが、本当はそうではないし、自分は沢ヤだとも思っていない。(広義では沢ヤ)
それでも自分は沢登りというものに出会って救われたし、沢登りを通じて出会った人達に救われたと感じている。
いや、今回の布滝登攀からはめちゃくちゃ考える機会を得た。
結局締め括るような答えは浮かばなかったが、その後また大滝登攀に復帰している。
色々、考えた大滝やったんやね。考えること、とても大事です。
めちゃ内容濃いレポート有難う!待っていました。
色々と心の中で、考えているんだろうなと思っていました。モヤモヤ?がすっきりすることは、一筋縄ではいかないと思いましが(自分もそうですが)、失敗も含めた経験を蓄積して、先人から吸収して、成長するんだろうなと思います。
自分たちは自分たち自身の経験しかありませんので、大きくは言えませんが_(._.)_。
また滝登りも、いやドップリ系の沢にも行きましょう!