遺体搬送の経緯

遺体搬送の経緯

報告者  上阪 徹三

 

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 遺体の発見後、状況から判断して当日の引き上げは困難と考えた。発見者4名は左岸に居たが、それ以上遺体が流されたりしない様に処置をする事になった。ザイルの末端つけたカラビナを水中に潜って遺体のハーネスにつけることにした。水深が腰ほどの強い流れにより、その場に留まる事は不可能なので二人一組で行った。なかなか思うように出来なかったが、3,4回ほど試みて、ハーネスにカラビナをつける事に成功した。その後、ザイルを左岸側壁にハーケンで固定して、現場を後にした。

 

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 A班のメンバーはわらじの会11名、消防隊3名。

前日に購入したウェットスーツを全員が着用した。水温の低い白川股本流では非常に役立った。消防隊の方に折畳み式の遺体の収納具を持参していただいた。

 入渓ルートは現場までの最短と思われる小黒構の尾根を下り30分ほどで白川股本流の川原にでた。ここより現場までは約200m。

 入渓して、本流ゴルジュに入る。消防隊が先導して最初の釜を泳ぎ、ザイルを固定する。左岸から右岸へ渡渉後、懸垂下降をした。すぐに滝上の釜が現れる。再びザイルを固定して右岸から左岸へ渡渉。左岸を高巻いた後、懸垂下降をして現場に到着した。

 

現場の状況:

 直爆8mのすぐ下流で川幅は7-8m。水深は腰程度で直爆からの圧倒的な水圧がそのまま流れ込む。水流は強い。遺体は頭を川下に仰向けにバンザイをする格好となる。川幅のほぼ中央部に位置する。上半身はライフジャケットにより水面にあるが、下半身は、足もしくは腰道具が川底に引っ掛かってその場に留まっている様子。

 

 

 まず、対岸の川上にザイルを固定した。会員2名一組で下半身の引っ掛かりを取り除く作業に当たる。一名が確保している間に、もう一名が下半身の引っ掛かりを取り除く。泡だらけで視界が悪い中、水中に遺体と結ばれたハンマーが岩の間に食い込んでいるのを発見。ナイフで、ハンマーを結ぶ紐を切った。すると、遺体はその場から離れたので、左岸に待機したメンバーが、前日に固定したザイルを利用して遺体を岸に引き寄せる。ザックを外して遺体を引き上げようとするが、岩が多いために左岸への引き上げは困難と判断する。右岸から引き上げる事にする。対岸に固定したザイルを用いて数人がかりで遺体を右岸に引き上げた。

 

 

 対岸では消防隊が収納の準備をしてくれていた。収納ケースに遺体を移し、浮力を得るためにライフジャケットごとパッキングをした。

 

 

 下流に向けて遺体を搬出する。収納ケースの頭部と足部にそれぞれザイルを装着した。この先のゴルジュは、S3mの段差の後トユ状となり、その先に0.5m滝を大釜に落とす。その後は長淵となる。大釜を超えるまでが搬送のポイントとなる。S3mの滝場は、上から充分なテンションをかけながら足部からゆっくりと降ろす。次は、L10mトユ状の先に0.5mの滝が大釜に落ちる。小さいながらトユ状からの水流が一気に大釜の水面下に深く潜り込んでいく。2名が先行し大釜を泳ぎ渡った所まで長い固定ザイルを張った。サポートに数名が付き添いながら上からはテンションを充分にかけて遺体を降ろしていく。滝部に差し掛かる時には、逆に川下から引っ張った。滝の落ち口では左岸で一名がザイルをボディーで固定して遺体を搬送するが、非常に水流が強くて作業に難儀する。側壁にボルトを打って支点を得た方が良かったかもしれない。冷水に浸かりながらの作業はウェットスーツなしには不可能であった。

 

 無事に難所をクリアした後は長淵が続く。ここで消防隊に遺体を引き渡し、私達の作業は終了する。長淵が終わると川原が開け大黒構谷出合(コブキ)に着き、B班・機動隊と合流する。ここで消防隊から機動隊への遺体引渡しが行われた。後は堰堤部まで川原を下る。そこから林道への階段は人力のみの引上げ作業となる。機動隊約30名が交代で運び上げてくれ

た。約30分で林道まで引き上げたが、相当な重労働に見えた。階段を上がると警察・消防関係の車が沢山止まっていた。紺色のバンが待機していて、そこへ遺体は無事に収容された。

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