2022/8/22 栗平川 見行地谷 左又 〜初めての沢リード〜

シブさんのメン募に乗っからせてもらいグズつく曇天の隙を突くように

栗平川 見行地谷左又へ。

メンバーはシブさん、ハラケンさん、私、アサラト妖精。

今回のブログでは遡行した谷の紹介というよりも僭越ながら私の初めての沢リードについての感想を中心に綴らせていただきたい。

大阪わらじの会に入会してちょうど1年。

ついに自分にもこの日がやってきた。

沢でリードをしている方なら誰もが1度は経験すると言われる「沢リードデビュー」

その日である。

入会以来この1年でいくらかの谷に入り、いくらかの沢を遡行し、滝を登ったり巻いたりしてきたが、そのどれもがフォローとして。

先行(リード)してくれる先輩方の描くラインをフィックスロープに沿ってアッセンダーや、フリクションノット(クレイムハイストにプーリーを追従させるのがお気に入り。)を使って登っていく。

はじめの頃はそれすらいっぱいいっぱいでリードが支点を構築して登ってフォローがフィックスロープに沿って登る、そのなんたるかすらよく解っていなかったが、その後岩トレ、マルチピッチと、ボルトルートでのリードの経験を重ねてようやく沢でフォローで登らせてもらってる時に支点を観察するに至った。

しかしその後すぐにリードしたい!となる訳ではなく、「どうやってこんなとこに支点作ったの?」や、「ようこんなとこリードしますね。」のオンパレード。

そんな自分がついに「リードしてみたい」と思うに至ったのが本山行の2週間前に行った「ほしやたわ滝」での(こちらも初めての)大滝登攀。

3年前に登っているわらじの特攻隊長Red Eye氏と大滝登攀デビューの3名にて。

前日からジムで追い込んできた(なぜ)Red Eye氏が3ピッチ全リードしてくれる姿を見て
「ワカッタ、ワタシモリードスル」という想いが心に芽生えた。

山行中のパーティというものは不思議だ。

特に言葉を交わす事なくとも、各々が何かを感じていてそれがテレパシーのように共有される事がある。

パーティとはひとつの生き物の様に感じる事がある。

毎山行、その一部となれている事に静かな悦びを感じている自分がいる。

初めての大滝登攀を終え、ハーケンを持っていなかった2人は2日後にはハーケンを買い揃えていた。

本山行に話は戻り、前日に「ハーケンを買ったので、リスの選定やハーケンの効かし方を教えてほしいです」と少し控えめに、でも闘魂を漂わせたLINEをシブさんに送ると、「登れる滝がバンバン出てくるので妖精にもリードしてもらっていいかも」と。

沢リードデビューが決まった。

 

シブさんのおろしたてシングルロープを担がせてもらい、昂る気持ちを落ち着かせる様にフリーで登れる所は積極的に流心を攻めた。

水をたっぷり吸ったシングルロープ50mにシャワーを浴びながらの立ち込みがこんなにもきついのかと思わず声が出た。

今まで25Lのザックにワクワクだけを詰め込んでいた自分にはハーケン、とロープの重みが足を地につけてくれる。「自分で登っている」という感覚がよりリアルに太腿を締め付ける。

ひとつ目のリード対象の滝は岩壁が脆く、巻くことに。

ここの巻はシブさんのリードで。

誰も何も言わなかったけどここの巻き、結構ないやらしさだった。

そしてフリーで小滝を何本か登ってテンポ良くその瞬間が訪れた。

1年前に習った8の字結びの末端を処理してロープの張られていない滝のテラスに攀じ登った。これまでリードしてくれた先輩方の姿が頭をよぎる。

冷静に、落ち着いて。
初めてリードというものを見た、あの時のコージさんの静かさをイメージして深呼吸をしたと思う。

シャワーを浴びて、水流がレインコートのフードを叩けば叩くほど、心は静かに冷静になっていく。

安定したテラスからゼロピンのイメージで冷静に初めてのハーケンを打つ。

スリングをかけてテイスティング。

バッチリ効いてる様に思うが「どうですか」とチェックしてもらう訳にもいかず、これを信じるかどうかは全て自分なのだ。

稀にリードの練習とか、ハーケンワークとかでロープを出さなくてもいいような所をリードさせて、教える人はフリーで登ってチェックみたいなのを見かけるが、あれは正直流れの確認にはなるが、リードのなんたるかを体感として入れる事にはなりえないと思う。
(もちろん訓練は安全にというのが大切であるが。)

山や沢では言葉や映像で学べる事は極端に少なく、体験を通して得られる体感、認知がとても大きな財産になる。

平地でいくらロープワークを練習してもいざ山でひとつテンションがかかると全てが違ってきたりする。(そんな意識をもちながら平地で訓練する事は大切だとも思う。)

今回の山行ではハーケン、ロープを担ぐところからやらしてもらって、リードも端的にアドバイスをくれて、自分で体感する余地を大いに残して見守ってくれたシブさんには感謝でいっぱいだ。

正直2つ目にリードした滝が強烈だったので、記念すべき初リードの滝の記憶が少し曖昧ではあるが、ひたすら落ち着いて、静かに登れたと思う。

2つ目にリードした滝は先に書いたように強烈だった。

登攀ラインは迷いまくりで、落ちるかも(ここで足が抜けたら手だけで止めれないかも)と思う箇所もあった。足を切り気味で腕のプッシュのみでラインを変えた箇所もあった。

怖すぎてハーケンの直上をスメアして登った。

乗り込みで太腿は攣りそうになり、腕はパンプして1つ目の滝の時の落ち着きが嘘のようにザワザワと心が揺れる。

今になってハラケンさんが撮影してくれていた動画を見返すと登攀ラインがブレブレで寄り道ハーケンを無駄に打っている。

後から引きの写真で見るとどう考えても水線なのだが、日和ると水線から離れていこうとするのはなぜ??

きっとより悪いルートを取ってしまったのだろう。

後続のハラケンさんとシブさんは水線を登ってきたのだそう。

やはり落ち着きと冷静さ。これを欠くとホールドが繋がらずラインがブレてくる。

この2つ目の滝はとてつもない情報量の体験を与えてくれた。

ジムでボルダーからクライミングをはじめて、外岩でリードをして、今年は単独でも沢に行き、フリーで登り、今回の沢リードデビューを果たした中、出力量の違いというものをとても意識するようになった。

自分の力を最大値10とした時に、ボルダリングジムなら常に9-10出せるイメージ。

シングルピッチのスポーツルートでも、部分的に9-10を出しても良い。

いわゆる本気トライというやつ。

本気トライはトライしても良いという前提の出力。

これが沢のしかも単独のフリー(フリーソロ)になった途端話は変わってくる。

単独で足を痛めるだけで「自力下山?」「ビバーク?」「遭難?」「低体温症?」の文字が頭をよぎる。

オンサイト前提の登攀で本気トライなどできない。

というか出力量が変わってくる。自分の体感では単独の場合、登攀に使える出力は5-6、部分的にも7まで。それも落ちた場合ドボンである事など。吟味すること。

不確定要素を多分に含む沢のリードにおいても、6-7、瞬間的にも8までというイメージ。

これはあくまでも私の個人的な体感を数値化したものなので(自分の8は登れる人からすると3かもしれないので…)そういうイメージという話でしかない。

そんな前置きをしておいて、今回の2つ目の滝は瞬間的にではあるが8.5が2回出た。

これは自分のイメージとしては無理矢理、パワープレイでのぼってしまったという感じ。

ジムに通ったりトレーニングする事でパワーで誤魔化せるようにはなったのかもしれないが、どんな悪場も6-7で登ってしまうライン取り(ルーファイ力)を身につけたいと思った。

スポーツルートのグレードはそこを1番簡単に登った場合の数値だという。

つまり(自分を含め)初心者によくあるのが5.10aの壁を(ホールドの見逃し、ムーブがおこせない等の理由で)5.10cの登り方で登って登れないというやつ。

これは沢になるとより顕著になる。

5cm足を動かすだけで手の届く範囲がガラリと変わる。

それを見極めて繋いでいくのがリードのライン取りの難しさであり、最大の魅力のように感じる。

ロープをフィックスしてアッセンダーで登ってきたハラケンさんに、「ようこんなとこリードしたな」と言われて、はっとした。

「ようこんなとこリードしたな」はフォローで登った人なら1度は口にした事のあるセリフかもしれない。そして、リードしてる人はよく言われるセリフかも

ここにもリードとフォローの心理的な違いを垣間見ることが出来て面白いなあと思った。

なるほど、リードとフォローは同じ登るでも全く違う景色を見ているんだなあと。

よくクライミングはメンタルスポーツであると言われるが、沢登りはメンタルそのもののような気がする。

滝に向き合って登っていると本当に沢山のことに気付かされる。

ようこんなところリードするなあと言う割におろしたてのラバーソールで連瀑帯をガンガン登っていくハラケンさん。
当たりやったというファイブテンのラバーソール(MTBシューズ?)への信頼感がその登りを見て伝わってきた。

ガンガン登る2人に頑張ってついて行く状態になってきた。

結局今回の見行地谷左又では3箇所リード、その他、連瀑をひたすらフリーで登る

登りまくりの楽しい谷だった。

が、はじめて背負う50mシングルロープが予想以上に体力を削っていたのだろうか、後半フリーで連瀑を登りまくるにつれて徐々に遅れだしてしまい、最後の詰めでは3歩歩くと脚が攣る、空あくび、手足の痺れというシャリバテの症状が出てしまうという幕切れに

時間を喰いながら、何とか稜線まで上がるもガス欠でそこからロープをハラケンさんに持ってもらうという何ともしょっぱい下山になってしまった。

これは、前日の睡眠不足(前泊/車中泊)、行動食、昼食の不足、水分補給の不足からきている。はじめてのリードで気負いがあったのか。(あとフリーのシャワクラ責めすぎた感。)

ハラケンさんもなかなかに消耗してたのに水分を分けてくれて、最後までロープを担いでくれて、本当にお陰様です。

あと入渓からずっとアブにたかられて、折角カッパの下を携行していたにもかかわらずハーネス脱ぐのをめんどくさがってしまいサポートタイツ上から未だかつてない程アブに喰われた。

教訓!

水分補給もエネルギー補給もアブ対策も、思い立ったら即行動!

先手必勝!

何とも課題だらけの山行になったが最高の体験ができた。

初めての沢リードとしてもベストな谷を選んでもらえたと思う。

栗平川 見行地谷左又。

未だに読み方がわからないが、またひとつ忘れられない谷と出会えた。

シブさん、ハラケンさん、ありがとうございました。

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6件のコメント

  1. 読み応えあった!
    俺はいつも現場に着くまでにずっとビビってる。
    イメージの中で数え切れないくらい落ちて死んでる。
    常に最悪の状況から物事を考えるようにしてる。
    そうするとヤバい状況になっても、不思議とイメージした最悪の状況よりはマシだって思えて落ち着ける。
    詰まった時こそ深呼吸して冷静になろうと心掛けてるかな。
    緊張して呼吸が乱れると、脳への酸素が不足して判断力が鈍るから。
    近いうちに大滝行こーぜ。
    イケるとこはガンガンリードしてー。

    • アサラト妖精

      リードしてみてようやく、これまでのRedEye氏のラインどり(支点構築)の綺麗さに気づきました。
      1回リードするとフォローで登る時の意識も変わるし、またRedEye氏のライン見せてもらいたいし、自分のラインもみてもらいたいです!

  2. お疲れ様さまでした。
    いろいろ考えていた上での今回の山行でのリード、充実感が伝わってきたし、考えの隙間が埋まってきたように感じました。
    登攀に於いて、ジムトレはいろんな利点があります。その一番は、ムーブ解決能力でしょう。さらには、板場より岩場での方がさらに効果大と思います。その能力は、フリーで努力することで沢に活きてきます。私も気合いを入れてその蓄積されたムーブで乗り越えていくことがしばしばあります。

    • アサラト妖精

      沢でのリードを経験したことで、ジムトレもフォローで登るのもまた今までとは違った角度で取り組めると思います。
      沢にもっと行きたいと思うようになりました(^^)

  3. 私もとても楽しく、充実した山行でした。即席のパーティーでしたが、阿吽の呼吸で動けたいいパーティーでしたね。
    リード能力上げる為にも何よりまず兎に角、沢を沢山行くこと。行けば行くほど、見えてなかったものが、沢山見えてきます。
    同時に日頃の鍛錬。ジム、岩場でのオンサイト力を付けること。たとえば、私のオンサイトグレードは11.Aですが、コージは12.a。私が完登するのに50回かかる(ものによっては完登できない)ルートをオンサイトできます。これは出力差にか関わり、私が登るのに100%以上の力出さないといけない所を70%の力で、余力を持って登ることができるということですね。
    ジムトレ、筋トレ、ボッカトレ、だから日頃の鍛錬が大切ですね。

    • アサラト妖精

      ありがとうございました。
      沢がますます楽しくなってきました!
      そして相乗効果でクライミングのトレーニングも楽しくなりそうです!